良い物語

久しぶりに「良い物語」を読んだなぁという気持ちになった。
宮部みゆきさんの「あんじゅう」の第一話「逃げ水」だ。

面白い話は、最近でも何冊も読んだ。
先日も書いた「孤狼の月」以来、柚月作品を立て続けに読んだら、どれも面白くてハマったし。
井上夢人さん・貴志祐介さんなど、好きな作家さんの小説を再読して、「やっぱり面白いわぁ!」とうれしかったりした。
宮部みゆきさんも大好きで、ドラマを見るために再読した「誰か-somebody-」「名もなき毒」「ペテロの葬列」は、どれも濃いドラマに圧倒された。
食事で言えば「あぁぁ、美味しかった!おなかいっぱい♪」という感じ。

比べて「逃げ水」は読み終わった後、まるで滋味深いお料理を頂いた時のような、全身にしみじみと良いものが染みわたるような気持ちになれた。

「あんじゅう」は三島屋変調百物語シリーズの二冊目。
「百物語」というように、怪しく不可思議な話が語られます。
百物語の聞き手は三島屋の「おちか」という娘。
一冊目の「おそろし」ではそのいきさつ、おちかの過去などが語られるので、先に読んでおくとわかりやすいです。

そして二冊目「あんじゅう」の第一話「逃げ水」
とあるお店の番頭が丁稚の染松を連れて三島屋にやってくる。
「こいつがいると、店中の水がなくなるんだ」
確かに、染松がいる部屋の土瓶の水も花瓶の水も、あっという間に蒸発したかのようになくなってしまう。
おちかは、染松を三島屋でいったん預かってみようと言い出す。

この染松(というのは丁稚名で本名は平太)と、もともと三島屋で丁稚をしている新太の二人の少年が、とにかく微笑ましくかわいらしい。
心根がまっすぐで素朴で一生懸命で。
もともと「宮部さんは少年を描かせたら日本一」と思っている私ですが、この話は「宮部さんの本領発揮だなぁ」と。
また、この怪異(水が勝手になくなる現象)を引き起こすモノも・・・と、あまり書くとネタバレになってしまいそうですが。

読んでいると「人は弱いかもしれないけど、愚かかもしれないけど、でもこの世も捨てたもんじゃないよね」と思わせてくれる。
ほのぼのと温かいもので心が満たされるような気持になれます。

オススメ♪